トップ >  Chinese tea break

 

   
 
 (2)

茉莉花茶(まつりかちゃ) ... (U)

 
   
   
 

★ショート・ストーリー

「びっくりしたよ、入院だなんて!」

隆志は真顔である。

「私もびっくりよ。気がついたらベッドの上。それもあなたのベッドじゃなく病院の」

宏美は微笑んだ。

「バッカ……」

隆志は8人部屋の病室を、照れるように見渡した。

アパレル業界に身をおいて3年。宏美は夢中で仕事をこなしてきた。というか、背中を押されるように、振り向くことも立ち止まることもできないまま、突っ走らされた。10時、11時の残業は当たり前。それでもすべてがキャリアになる、いまはキャリアを積む時期だと、笑顔を振りまいてきた。

唯一のストレス発散は、ウインドサーフィンだった。どんなに前夜が遅くても、休みの日は朝5時には愛車のハンドルをにぎっていた。海で1日、波にもまれ、クタクタになって仕事のストレスを洗い落とすことで、仕事への意欲をかきたててきた。つもりだった。

「先生はなんていってるの」

「た・だ・の・カ・ロ・ウ」

「……」

「せっかくだから、検査入院ということで、1週間ほど様子をみましょって。会社には母があやまりにいってるわ。迷惑かけるもんね、入院だなんて」

「会社がなんだ!」

「エッ?」

宏美には、隆志の言葉がよく聞き取れなかった。

宏美は、微かな香りに気づいた。病院特有の臭(にお)いで麻痺していた鼻を、なつかしい香りがノックしている。

「ねえ隆志、なにかいい匂(にお)いがしない?」

「……」

 

「ジャスミンじゃない?」

隆志は思いっきり息を吸い、キョトンと答えた。

「やっぱし〜!! なつかしいはずだ。私、大好きなの、この香り」

隆志は、思った。宏美の好きな香り……。知らなかった。お互いに忙しいから、会えないことも苦にはなっていなかったけど、恋人としてよく続いてたよな。宏美のこと、ほとんど知らないのじゃないか、おれ。相性だけで、ベッドだけで、恋人きどりしてたんじゃないか……。

春は盛りとハゴロモジャスミンが、病院わきの石塀を白く浮き立たせている。道ゆく人はしばし、愛で、香りに胸をふくらませる。香りは春の陽気に踊らされ、舞い上がり、6階の病室のわずかに空いた窓から訪れていた。

「ああ、うれしい。なんか、生きる力が湧いてくるよ!!」

「生きるって、別に死にそうになったわけじゃないだろ!」

「うううん。私、ベッドのうえで思ったの。ホントに生きてるのだろうかって……」

「……」

 

「ジャスミンの香りって、なんか私をふるいたたせるのよね。ずっと前から……。だから、忘れていたものに出会ったような、なつかしさを感じるなあ!! ああ、元気がでてきたぞ!!」

隆志は、宏美の笑顔を見ていた。そして、思った。知り合ったころの、なによりも宏美を求めていたころのオレはどうしたんだろう。惰性で恋人やってるのか……、違う!!

微かではあるが、ジャスミンの香りは、隆志をも勇気づけていた。

宏美が目を合わせた。じっと隆志を見ている。互いに笑みがこぼれた。

「あのころに戻ろう。二人の時間を大切にしていた、あのころにもどろう」

宏美と隆志は、大きく息を吸った。

<茉莉花茶にまつわる伝説をヒントにしました>

 

 
   
   
 

★茉莉花繍球は、銀針(ぎんしん)の芽(上質の緑茶の若芽)の付け根部分を糸でよって、小さな鞠(まり)のように仕上げた仕込み茶・茉莉花茶です。熱湯を注ぐと蕾の花が開くようにふくらみ、職人芸のすばらしさに驚かされます。繍球は刺繍を施した鞠で、中国の伝統工芸です。繍球の多くは吉祥図案が描かれるなど、縁起の良いものとされています。上品で柔らかな茉莉花の微香と、少し甘みのある茶の味わいが特徴です。飲んだ後も、ノドに静かに広がるかすかな苦味が、茉莉花の残り香とともに、心地よい余韻にひたらせてくれます。

 

お口のなかサッパリ。口臭も気にならない!!

★茉莉花茶の特徴

花茶には緑茶をベースにして香りづけしたものと、ウーロン茶をベースにして香りづけしたものの二種類があります。

茉莉花茶の場合、緑茶をベースにすることが多いのですが、ウーロン茶ベースに比べ、上品でくせのないおいしさと、涼やかな茉莉花(ジャスミン)の香りが楽しめるからです。

香りづけ(薫香)は、「イン」という製法(後述)でおこないます。上質なものほど回数多く香りづけをくりかえします。「イン」とは、室(むろ)、穴蔵の意で、そこで製造する方法です。

中国では緑茶の総生産の大半を茉莉花茶として加工するほど人気のお茶で、庶民から高級嗜好の人まで広く親しまれています。それだけに、原材料やグレード、加工法などは多種多彩です。

 

まず緑茶を作り、できあがった茶葉が香を吸収しやすい性質を利用して着香させます。好みは様々です。ある人はひたすらジャスミンの香りの強さを求めます。またある人はジャスミンと茶葉の風味の共鳴に至福を感じます。かすかな苦味すら嫌う人、好む人はわかれます。

茉莉花茶としての人気は、そうしたわがままなほどに多種多様な個々人の嗜好を満足させるくらいに種類が豊富であることにも支えられているといえるでしょう。あなたにも、お気に入りの茉莉花茶が見つかると良いですね。

★茉莉花茶の効果

茉莉花はジャスミンの一種で、英名はアラビアジャスミン(Arabian jasmine)。インドが原産のモクセイ科の常緑半蔓(つる)性低木です。甘くフルーティな強い香りの白い花は、八重、半八重などがありますが、中国では、半八重品種を茉莉花茶に用いています。

茉莉花の薬効は古くから知られていました。中国の本草学を確立した書として、現代でも生薬の研究になくてはならない最高文献とされている「本草綱目」(李時珍  1596年)にも紹介されています。本草学とは、中国古来の薬物学で、病気や養生に役立つ薬の原料を発掘した学問です。

「本草綱目」には 動物、植物、鉱物の薬物が16部60類に分類され、約1900種類が紹介されています。「本草綱目」は林羅山(1583〜1657)によって徳川家康(1542〜1616)に献上され、以後に日本でも出版されています。

香り成分であるベンジルアセテートは、右脳を刺激して自律神経の緊張をほぐし、集中力のアップやストレス解消に効果があります。落ち込んだ気持ちを奮い立たせ、ポジティブにする効果もあります。

朝起きたときや、お出かけ前に飲むと、体がスイッチオンし、一日がさわやかな気分ですごせます。 食後に飲めば、口のなかがさっぱりとします。口臭も気にならなくなります。また、おやすみ前には、香りを楽しみながらゆっくり飲むと良いでしょう。緊張がほぐれて心地よい眠りへと導いてくれますよ。

◆次回予告◆

非常に手間暇のかかる花茶の製造ですが、茉莉花茶がどのようにしてできるのか、一例をご紹介いたします。おいしいお茶づくりに傾けられた情熱を思いながら、お茶を味わうのも心晴れるものがあります。

 

トップ >  Chinese tea break

 

・協力/茶藝館 (代表:山内正水 TEL.0424-62-5147 FAX.0424-62-5050)

・資料/『中國茶讀本』発行:(社)静岡県茶業会議所
           著者:荘晩芳、唐力新、孔憲楽、王加生 訳者:松崎芳郎

『中国の名茶』発行:「中国の名茶」翻訳刊行会
           著者:荘晩芳、唐慶忠、唐力新、陳文懐、王家斌
           訳者:荒井藤光、松崎芳郎

『中國茶藝』発行:婦幼出版社(中華民國) 

 

 


※無断複製・転載・放送等はお断りいたします