トップ >  Chinese tea break

 

   
 
 (1)

茉莉花茶(まつりかちゃ) ... (T)

 
   
   
 

★ショート・ストーリー

「フーッ」

恵子は時計を見た。11時を少し回っていた。フロアには、まだ何人か残っている。「シンデレラじゃあるまいし、終電まで頑張るつもりかい……」

誰にいうわけでもなく、恵子はつぶやきながら帰り支度を始めた。

ふと窓に目をやる。隣の高層ビルにも、幾つかのフロアから、寂しげな光が四角くこぼれていた。恵子は、明かりの落ちたフロアをバックに、ガラスに映った自分に気づく。

真っ暗な部屋に帰って、灯りをつけるときの自分を見たような気分。恵子は首を振り、我に返る。

「お疲れ様でーす!」

元気な声で社を後にした。

外ではビル風がまっていた。疲れた体にはこたえる。恵子は足早に駅へと急ぐ。風になぶられ、サンダルだと気持ちほどスピードがでない。

「ローファーにしときゃ良かったな」

恵子は駅の明かりが目に入った瞬間、足元の段差に気がつかず、つまづいてしまった。よろめいて、思わず誰かの胸に飛び込む形に。右手がしっかり相手の腕をつかんでいた。酒臭い。相手が背中に手を回した。

「すみません!!」

態勢を整えようと、恵子は身を起こすが、相手との距離は開かない。相手の赤い顔めがけて恵子の顔がせりあがっていく。酒臭い息に恵子は呼吸をとめて、もう一度、相手を押すように体を離そうと試みる。

「すみませんでした。もう、大丈夫ですから!!」

突然のことで、恵子の声は震えていた。それをおもしろがったのか、相手の中年男は、離そうとしない。脇を通りすぎる誰もが、二人を相手にしていない。

「なにかの縁だよ。今夜つきあえよ」

驚くべき中年男の一言。恵子は失神しそうになった。わずか、30秒ほどのドラマ(そう思いたい)なのに、永遠に続くのではないかと、絶望が頭をもたげる。
「おじさん、もういいだろ。手を離してやれよ」

そばに一人の若者が立って、二人を引き離そうとしている。サラリーマン風のその若い男性、28歳の恵子には「若者」に見えた。

あとは、覚えていない。電車の扉に寄りかかり、ガラスに映った自分に気づくまでは。

「あの若者はどうしただろう。私はちゃんとお礼をいったのだろうか」

恵子はいつものように、真っ暗な部屋の灯りをつけた。中年男とのドラマではなく、若者のことが頭から離れないまま、お湯を沸かし、着替えをすませてソファーに崩れ落ちた。

疲れた日は、寝る前に茉莉花茶を飲むことにしている。お湯を急須に注ぐと、茉莉花のやさしい香りが、恵子をいたわるかのように、包みこんでいく。茶碗に茶を注ぐ。立ちのぼる湯気のなかに、一瞬あの若者が現れて消えた。

「ありがとう」

恵子は、声にだしてお礼をいった。

 

<茉莉花茶にまつわる伝説をヒントにしました>

 

 
   
   
 

★茉莉花繍球は、銀針(ぎんしん)の芽(上質の緑茶の若芽)の付け根部分を糸でよって、小さな鞠(まり)のように仕上げた仕込み茶・茉莉花茶です。熱湯を注ぐと蕾の花が開くようにふくらみ、職人芸のすばらしさに驚かされます。繍球は刺繍を施した鞠で、中国の伝統工芸です。繍球の多くは吉祥図案が描かれるなど、縁起の良いものとされています。上品で柔らかな茉莉花の微香と、少し甘みのある茶の味わいが特徴です。飲んだ後も、ノドに静かに広がるかすかな苦味が、茉莉花の残り香とともに、心地よい余韻にひたらせてくれます。

 

リラックス効果抜群の癒し系花茶

★茉莉花茶をおいしく飲む

 茉莉花茶は花茶(かちゃ)では一番人気です。花茶は、茶と一緒に花の香りを楽しむもの。茉莉花(まつりか)はジャスミンの花のこと。甘いジャスミンの香りを楽しみながら、ゆったりとリラックスできるティータイムはいかがですか。穏やかな気分に戻れますよ。

・花茶のおいしいいれかた

花茶のいれかたは、一般の緑茶のそれと基本的には同じです。日本では急須を使って茶をいれるのが一般的ですが、中国では少人数なら白磁製やガラス製のふたのついた茶碗に直接茶葉をいれて茶を飲みます。ふたつきなのは、香りをできるだけ逃がさないためです。白磁製やガラス製の茶碗は、花茶特有の湯色をみるのに適しています。

 

日本の水は軟水のため、茶をいれる場合、茶の渋みが早くでやすいという特性があります。したがって抽出時間は、中国の本場で硬水を使っていれるのにくらべ、少し短くしたほうがおいしく飲めます。また、急須を使って、一煎ごとに茶液を残さず茶碗に注ぎきることです。

急須に適量の花茶をいれ、熱湯(摂氏80度前後)をいれます。1〜2分たったところで茶碗に注いで飲みます。

茶碗、急須は湯を入れて温めたものを使います。

二煎めも熱湯を注ぎ、1〜2分まってから飲みます。三煎め以降も同様です。最初の茶はノドを潤します。二煎めは茶を味わって飲むのに適しています。茶液は濃く、香りも十分にひきだされています。三煎めは茶の余韻を楽しみます。

お茶は普通、三煎めくらいまでおいしく飲めますが、手作り、手もみの良いお茶になると四、五煎めも十分楽しめます。茶の良し悪しに応じて、また茶葉の性質に応じておいしい茶を飲むためにも、買ったところで、買った茶のおいしい入れ方を聞かれると良いでしょう。

できれば熱湯は、茶を飲むときにあわせて沸騰させ、湯ざまし容器などに移し、湯の温度を摂氏80度前後にさまして使ってください。ポットなどで保存している熱湯は「水老」といって、水自体の鮮度が落ちるため、おいしい茶をいれる条件を欠くことになるからです。

水道水を沸かす場合は、できればカメなどにいれて一昼夜おいたものを使いましょう。残留塩素が自然と抜けてしまうからです。水道水をすぐ使う場合は、少し長めに沸騰させ、十分に残留塩素をとりのぞくと良いでしょう。備長炭を水道水と一緒にカメにいれておくか、ヤカンにいれて沸騰させるのも、水をおいしくします。

・花茶をおいしく飲む

まず茶碗をゆっくりと鼻先に近づけ、香りをかぎます。茶碗をゆっくりと鼻先から少し離し、再びゆっくりと鼻先に近づけます。これを二〜三度繰り返します。なんともいえない花の香りが鼻腔をみたします。ゆっくりと口に茶を含みましょう。心の緊張がほぐれ、さわやかな気分に満たされていくのがわかります。一煎、二煎……、ゆったりとした時間の流れも、一緒に楽しんでください。

・保存方法

残った茶葉の保存方法ですが、その前に、保存状態などの良い信頼できる店で、できるだけ少量ずつ買うことをおすすめします。つまり、店が保存場所といった感覚でお付き合いできる店をみつけると、一年中おいしい茶が楽しめることになります。

家庭で保存するには直射日光や高温多湿の場所を避け、冷蔵庫(摂氏0度が理想)に保存して下さい。日ごろ使う茶筒(密閉の状態の良いもの。1〜2週間分)と保存用の密閉容器にわけます。保存用は食品用ポリ袋に茶葉(1〜2ヵ月分)をいれ、軽くおさえて空気をだしてから、口をジッパー、あるいは輪ゴムなどでふさぎます。密閉容器に入れ、冷蔵庫で保存します。家庭での長期保存は、保存スペースの問題だけでなく、茶をおいしくいただくという点でも、1年を限度と考えるのが良いでしょう。

◆次回予告◆

茉莉花茶(ジャスミンティー)の人気の秘密や、どんな効果が期待できるのか、ご紹介します。

 

トップ >  Chinese tea break

 

・協力/茶藝館 (代表:山内正水 TEL.0424-62-5147 FAX.0424-62-5050)

・資料/『中國茶讀本』発行:(社)静岡県茶業会議所
           著者:荘晩芳、唐力新、孔憲楽、王加生 訳者:松崎芳郎

『中国の名茶』発行:「中国の名茶」翻訳刊行会
           著者:荘晩芳、唐慶忠、唐力新、陳文懐、王家斌
           訳者:荒井藤光、松崎芳郎

『中國茶藝』発行:婦幼出版社(中華民國) 

 

 


※無断複製・転載・放送等はお断りいたします